リストカット(自傷)による傷跡については、「完全に消せますか」「いくらかかりますか」「何回くらい通いますか」「保険は使えますか」「未成年でも治療できますか」といった切実な質問を、日々多くいただきます。
まず最初にお伝えしたいのは、現代の医学においても、傷跡を「完全に消して、何事もなかったかのような元の皮膚に戻す」ことは非常に困難だということです。しかし、「目立ちにくくして、周囲の視線を気にせず生活できるようにする」ことは、形成外科的な治療で十分に可能です。
赤み、茶色っぽい色むら、白っぽく抜けた線、段差や凹凸、そして同じ方向に並ぶ細い線が何本もあるといった傷跡。
傷跡の性質によって、向いている治療や期待できる改善の幅は大きく変わります。
また、時間の経過とともに自然に落ち着く要素もあります。
「一刻も早く、何もなかった状態に戻したい」と焦る気持ちは、痛いほどよくわかります。しかし、傷跡の治療で一番大切なのは、「傷跡が目立たなくなるまでには、どうしても『決まった時間』が必要だと知っておくこと」です。
【主な治療法と、状態に合わせた使い分け】
傷跡の状態を見極め、適切な手段を組み合わせることが重要です。大きく分けて以下の5つの選択肢があります。
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保存的ケア(すべての土台) シリコンジェルやシート、徹底した保湿、紫外線対策。 → どの治療を選ぶにしても、これらを丁寧に行うことで仕上がりに差が出ます。
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光治療・エネルギーデバイス(色や質感を整える)
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赤みが強い場合: 血管に働きかけるレーザーで炎症を抑えます。
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茶色い色素沈着: メラニンに反応するレーザーや外用薬で色を薄くします。
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凹凸(でこぼこ): 肌の再生を促すフラクショナルレーザーやマイクロニードルRF、炭酸ガスレーザーによる削皮術を用い、周囲の正常な肌の質感に近づけます。
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外科的治療(「形」と「印象」を変える) 整然と並ぶ細い線は、「それ」と分かりやすい見た目をしています。あえて線の向きや連続性を崩すデザイン(Z形成術やW形成術など)を行い、「自傷の跡」を「ケガの跡」のような見え方に変えて背景に紛れ込ませます。
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注射治療(盛り上がりを抑える) 傷跡が盛り上がっている(肥厚性瘢痕やケロイド傾向)場合に、局所ステロイド注射などを行います。
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カモフラージュ(今すぐ隠す) 専用のメイク、コンシーラーなど。
保険適用と費用の考え方
「つっぱりで関節が曲がらない」「強い痛みやかゆみがある」といった機能的な問題が明確な場合は、保険適用の対象となることがあります。一方で、日常生活で「目立ちにくくする」という美容的な目的の多くは自由診療となります。 当院では、最初の診察で状態を丁寧に仕分けし、保険で対応できる範囲と自由診療の選択肢を明確に提示します。
費用についても、いきなり大きな負担をお願いするのではなく、「まずは人目が気になる露出部を優先する」「小さな範囲で反応を試す」といった、段階的なご提案を心がけています。
治療を始めるタイミングと未成年の方へ
新しい傷は3〜6か月かけて自然に引いていく過程があるため、まずは保湿や紫外線対策を徹底し、成熟を待ってから治療を設計することが多いです。ただし、傷が盛り上がってくる兆候がある場合は、早めの介入がその後の経過を楽にします。
未成年の方の治療には、原則として保護者の同意が必要です。私たちは、今のあなたが抱えている体の悩みを安全に扱うことを第一に考えます。来院時に過去の背景を問い詰めたり、来院理由を責めたりすることはありません。学校生活や部活のスケジュールを考慮し、無理のない計画を一緒に立てましょう。
よくあるご質問(Q&A)
Q. 昔の傷跡ですが、今からでも変わりますか?
A. はい。何年も経過して白くなった傷跡でも、質感を変えたり、外科的にデザインを修正したりすることで、今よりも目立たなくすることは十分に可能です。
Q. 仕事を休む必要はありますか?
A. 治療法によりますが、レーザー治療であれば当日からお仕事が可能です。外科手術の場合も、激しい運動を伴わないデスクワーク等であれば、翌日から復帰できるケースがほとんどです。
Q. カウンセリング当日にすぐ治療を受けられますか?
A. 傷の状態を正確に診断し、リスクを含めて十分にご納得いただくため、まずは診察(カウンセリング)のお時間をいただいております。ご不安な点や費用面について、まずはじっくりお話ししましょう。
最後にお伝えしたいこと
私たちのゴールは「何もなかったことにする」という過去への執着ではなく、あなたが「自分の肌を過度に気にせず、今の生活を健やかに送れるようになること」です。
隠したい一心で強すぎる治療を選んでしまうと、別の困りごと(不自然な質感など)を生む原因にもなりかねません。段階的に、無理のないペースで、あなたにとっての「ちょうどよい落としどころ」を一緒に探しましょう。
まずは診察の場で、できることとできないことをはっきりさせ、試せる最小ステップからご提案します。あなたが「変えたい」と思ったとき、いつでもご相談ください。





